第1章

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 事実、彼らは巡礼の為に集った一団ではない。ある任務を終え、このグリフォン・ブラッドへ帰着した者達であった。  長旅を終えたのだろうか。一行からは心なしか疲れの色が見え、その歩みも遅々たるもの。  その時、一行の先頭を歩くフードを被った女が、後続の者に向かって優しく声をかけた。 「──皆様。この度は私の任務に護衛として御同行頂き、誠にありがとうございました。後は私一人で十分です。貴方達はこのまま詰所へ戻り、カミーラさんの指示に従って下さい。恐らく明日以降、数日の暇を与えられる事となるでしょう。どうか長旅の疲れをお癒し下さい」  そう解散の指示を下すと、女は颯爽とした足取りで歩き始めた。  刹那、一陣の風が吹き、女のフードを脱げた。フードの下より現れたのは美しく輝く金色の髪。風に靡くそれは神話の世界に登場する黄金色の河の如し。  女とはセティであった。  彼女は歩きながら、道の両脇に軒を連ねる家屋を見遣る。  かつては戦によって崩落した家屋の瓦礫が彼方此方に残され、無残な姿を晒していたが、今ではその殆どは綺麗に片づけられており、既に幾つかの家屋には修繕の手が施されている。  街の広場に差し掛かると、未だ乏しい物資を扱う商店や露店には絶えず人が群がり、そして道を行き交う人々の表情には活気が満ちていた。  セティはその溢れんばかりの活気に、街の復興の息吹を感じ取り、心の底より安堵する。  ──半年前と比べれば、見違えるかのようだ、と。  そう、彼女は半年前に任務の旅に出て──今日、無事に帰還を果たしたのだ。  旅の目的とは、二つの任務を達成する事であった。  第一に大陸中の主要都市を巡り、ソレイアとの戦に関する現状の説明を行うというもの。  これは、聖都奪還を待望する各地の神殿勢力や、それに近しい関係にある有力貴族の再三再四の要請に、戦の前線を担う神官戦士団が応じる形で実現された。  その神官戦士団側の代表者としてセティが選抜されたのは、彼女が前線の指揮を執る『二人の聖騎士』と最も近しい関係であるという事情があるが故の人事であった。
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