第1章

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 セティはこれに関して、一定の説明責任を果たしたと自負している。だが、説明を受けた者からの反応は様々であり、前線の事情に理解を示す者もいれば、月日を経てもグリフォン・テイル奪還に至らぬ事に激昂する者もいた。また、ある街を訪れた際には、聖都奪還を諦め、聖都をソレイアの勢力下にあるグリフォン・テイルから、三年前に司教ウェズバルドが逝去したグリフォン・リブに遷都すべきという機運が高まっているという事実を知った。  この問題は、聖都奪還を実現せぬ限り、燻り続けるであろう。だが、前線もソレイア公国側も、度重なる戦によって消耗・疲弊し、その勢力の回復に全力を向けているのが現状であり、互いの関係は膠着状態の様相。最近二年では、両者間で表立った戦すら起こってはいない。  前線の騎士団と神官戦士団がソレイア公国への攻撃にいつ再着手するのか? 聖都奪還に乗り出すのか?  それは誰にも──セティにすらも予測出来ない状態であった。  だが、セティは自負する。  勢力の回復力に関しては我々が上であると。公国への攻撃は、そう遠くない日に実現するであろう、と。  自負の根拠は、彼女が授かったもう一つの任務、その成果の中に存在していた。  そして、第二の任務とは──エッセル湖畔の視察であった。  かつて、エッセル湖岸には、幾つかの街が存在しており、そのうち、北に険しい山岳地帯を抱えるグリフォン・クラヴィスが実質上、東西の玄関口としての役目を果たし、その立地条件故に交易が栄え、大陸を代表する一大商業都市として発展を遂げる反面、他の湖岸の集落では過疎化に拍車をかけていた。  また、その発展著しいグリフォン・クラヴィスにおいても、ソレイアが西の聖都を蹂躙した影響によって、大陸全体の治安が悪化し盗難や強盗などといった被害の頻発によって採算が合わぬようになってしまった商売に見切りをつける商人が続出。職を失った者らが街中に溢れかえると言う有様。  だが一昨年、一人の聖騎士の考案によって、その惨憺たる地に大規模な改革が施された。
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