第1章

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 その中で、ソレイアは静かに呟いた。 「いいだろう──その託宣、確かに総大司教ソレイアが賜ったわ」  何かが弾けるような感触とともに、ソレイアは覚醒した。  彼女は私室の奥にある絢爛な椅子に腰をかけたまま眠っていた。  大量の寝汗によって衣服が肌に張り付く感触が不快であったが、先刻の鮮烈なる悪夢から解放された事による安堵感のほうが強かったのだろう。深い溜息をつくと、額に浮かんだ汗を手で拭い去った。 「また、この夢──か」  この国の指導者となってからだろうか、それとも東から押し寄せる騎士団の脅威を感じ取るようになってからだろうか。  ソレイアは同じ夢を見るようになっていた。 「回数も増えたような気がする──やはり、あの三拠点を落とされてからというものの、その頻度も顕著」  騎士団により、フラム、グリフォン・リブ、そしてグリフォン・ブラッドの三拠点が制圧されてから三年。東方への路、そして港町エルナスへの路が閉ざされた事により交易による外貨獲得の手段は悉く封じられていた。  公国内では、反乱分子らの扇動による暴動と鎮圧が絶えず繰り返されており、そんな荒れた国内からは内需など望めるはずもなく、国力の衰退を防ぐには、国外との交易に頼らざるを得ない。  だが、三拠点を制圧され、それすらも十分に行えぬ。  この公国包囲網と称すべき状況を、何としても打破せねばならぬ。  まず、ソレイアは密輸団を結成し、騎士団の監視の網目を縫って周辺地域への交易の再会を謀った。  最初は相応の成果を上げたものの、対抗する騎士団も愚か者の集団ではない。ソレイアの手の者による密輸の事実を知るや、監視体制を強化し、積極的にこれを摘発。密輸によって得る収益も、これを冒す危険と比較して割が合わなくなってしまい、とうとう昨年、密輸団の解体を余儀なくされた。  ならば、公国の領土内に、港を築き、そこを国外への玄関口としようとしたが、領土の大半が標高の高い山岳地帯であり、領土南端に接している海を利用しようとも、その海岸は高い崖の遥か下といった有様。  崖の一部を切り崩し、物資の輸送路と港を築きこそはしたが、そのいずれも小規模なもの。また、造船技術が未発達な公国では、港町エルナスに数多く存在しているような大型帆船を造る事は叶わず、必然と交易の小規模化を余儀なくされた。
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