第1章

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 自然法則──即ち、生命の法則を捻じ曲げる程の。  故にカレンはグリフォンの魂より与えられる『力』にあてられ、命の法則すらも捻じ曲げられるのならば、不義の子であれど、健全な命を宿す事が許されるであろうと考え──そして、その思惑は的中した。 「私は我が娘──ノエルの出産に成功した事により、ひとつの可能性、その糸口を見出しました」錬金術師の女は、娘の頭を撫でながら言った。「生命の法則を捻じ曲げる程に強大な霊峰の『力』──それを支配する方法を」 「そうですか」  ソレイアは微笑みを浮かべ、平然とした様相で静かに頷いた。  錬金術の真髄とは、肉体や魂を人の手によって錬成する事にある。  公国を代表する錬金術師であるのならば、このような結論に至る事こそが自然。  それを知るが故、カレンの度外れた発言に対し、公国の主は一切驚きの感情を抱くことはなかった。 「霊峰の『力』を、貴女の錬金術に転用するという事ですね?」 「はい」と、カレン。「以前、ソレイア様が手に入れて下さった我が師レーヴェンデ様の文献。そして、この街に遺された霊術士どもの文献を読み漁り、検討を重ねた結果、ある一つの結論に辿りつきました」 「なるほど」ソレイアは得心して頷いた。「確実なのですね?」 「幾つかの『条件』が整えば、極めて高い確率で成功すると考えております」 「──興味深いわね」  そう言い、ソレイアは椅子に腰かけたまま、軽く身を乗り出す。  そして、数瞬の間を置き、公国の主は配下たる錬金術師を促した。 「さあ、話せ」 「はい。では──」  <2>  西方三拠点の一つにして、その最も南端に位置する街、グリフォン・ブラッド。  三年前、聖都が蹂躙されて以来、ソレイア打倒を掲げる騎士団にとって最前線基地の役目を担ってきた街。  南方に諸外国との玄関口たる港町エルナスが存在しているという地理的な理由で、幾度となく侵攻と解放が繰り返されてきた。  故に、最も戦禍の影響を受けた街であると言えよう。  戦いの傷跡が色濃く残る街に今、十数人から成る一行が、その地を踏んだ。  神官衣を纏った聖職者から成る一団であった。  一見すると巡礼の行旅とも見える。だが、巡礼の最終目的地たる聖都がソレイアに蹂躙されて以来、巡礼の旅に出る僧らは激減しているという。これ程までの人数の僧が旅を共にすることは、今となっては極めて稀な光景となっていた。
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