第1章

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「──そして、善なる魂はやがて聖獣の魂と同化し、邪なる魂は聖獣の魂と反発し消滅、或いは浄化される」 「その性質を、逆に利用する」ソレイアが語を継いで言うと、心底愉快そうに笑い声を上げた。 「戦を──大規模にして凄惨なる戦を幾度となく引き起こしたのよ。グリフォン・クラヴィス西の平原での戦いは、幾多もの騎士と、卑しき魔物どもが血の海に沈み、更にはグリフォン・ブラッドの街では騎士や民が同士討ちするように仕向け、そして、我が領土内の第一の砦でも、沢山の生命が失われたという──こうして、数千、或いは数万の非業なる死を嘆く哀れな魂の群れは、やがて漆黒の気配を帯びた瘴気となって石英碑に誘引され、浄化すら間に合わぬ有様。暗鬱なる魂はやがて聖獣の魂を食い荒らし、本来の霊格をも覆い尽くそうとしている」 「御意にございます」主君の言葉を、忠実な配下たる錬金術師が肯定する。「それにより、ソレイア様の御霊が再生する為に必要な、石英碑内の通り道──言わば、魂の産道を作り上げる事に成功したのです」 「私はいずれ騎士の刃にかかり、その魂は一時的に肉体より離れて石英碑の中に留まるも、それはリリアの死によって発現する膨大なる力の奔流とともに解き放たれ、そしてホムンクルスの胎内より生まれし赤子に憑依することによって『転生』の秘術が完成する」 「それだけではございません。ソレイア様の御霊を乗せた力の奔流ごと、新たなる肉体へと宿る為、その子は生まれながらにして高位の霊術士としての素養を十分に備えている事と同義。面倒な儀式や修練を行わずとも、聖獣の理を学ばなくとも、幼くして天才的な霊術の使い手として──そう、全ての自然法則、生命の法則を狂わせる程の力をもって、この世に再臨されるのです」 「ああ、なんと素晴らしい──」そう言うと、ソレイアは蠱惑めいた溜息を洩らした。「聖獣の力を手にする事。それは即ち、それは神に等しき力を手にする事と同義」  公国の主が笑う。そして、錬金術師が笑う。 「流石は、私が最も信頼する最高の錬金術師。貴女の恩師たるレーヴェンデ殿の書物に記された、禁断の錬金術──巨人の練成方法より、よくぞこの方法を導き出してくれました」  絶賛する主君の言葉を聞き、満足そうに頷くと、カレンは謙虚な表情を繕い、その賛辞に答えた。 「造作にもないこと」──と。
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