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「巨人の練成も、私の錬金術も根本たる理論は同種のものにございます。あの石英碑に秘められた力を引き出すに相応しき術士が現世には存在してはおらぬ故、当時の理論では人間の母の胎内より巨人へと成育する──言わば後天的なる奇形の赤子を造り出すのが限界とされておりました。ですが──」
そう言うと、カレンは憎悪と羨望が混じった眼差しを、眼前にて項垂れる霊術士リリアへと向けた。
そして、続けた。
「この女の存在が、私に新たなる可能性を示唆したのです──この女の力を使えば、聖獣の力の断片を抽出して錬金術を行使するのではなく、力そのものを根こそぎ石英碑より引きずり出す事も可能であるのではないかと」
「聖都を蹂躙した際、全ての霊術士を絶滅させた筈でしたのに」ソレイアが悪意に満ちた表情で、冗談めかして言った。「まさか、我々の目的を達するに必要な力を持っている者だけが生き残っているとは──その幸運たるや、まさに神のお導きに他なりませんね」
再び二人の狂いし女が笑う。
その嘲りめいた二つの笑い声が木霊する中、リリアが静かに顔を上げる。
だが、その所作、その視線には一切の覇気はなく、また、次の瞬間に発せられた声もまた小さな虫の羽音の如く、か細く、弱々しきものであった。
『また、暴動が発生……食人鬼兵隊は……三番通りへと急げ』
それは確かに、そして微かなる声として発せられた。命の灯火が消え失せんとしている彼女が必死に絞り出した声であった。
疲弊の為か、はたまた敢えてそのような声を発しているのか、リリアの声は男の声を真似ているかのような低音であり、更にそれは途切れ途切れ。所々、まともには聞き取れぬ。そして、言葉の意味も支離滅裂であり、傍目には、この霊術士こそ狂気に憑かれてしまったのではないかという錯覚に陥るであろう。
だが、そのような拙速な結論を下すような者は、この場に誰一人として存在していなかった。
ソレイアとカレンは、リリアの発した言葉の意味を察していたからである。
「そのような体でありながら、小賢しい事を──」
ソレイアが毒づくと、リリアの口元に微かな笑みが浮かんだ。
リリアは術を行使していた。それは、遠方にて交わされた会話や音声を盗み聞くという極めて初歩的なものであったが。
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