第1章

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 かつて、ソレイアとカレンが行っていた実験では、霊術の資質を持つ子供達が今際の際に霊術に酷似した現象が発現するという結果が存在しており、その現象は外傷による死ではなく、飢えや病などといった、自発的な生命の喪失時に発生するという。  無論、子供たちに霊術を行使した経験は皆無。  だが、その現象について錬金術師カレンは、こう結論付けていた。 『彼らは霊術士となるには十分な素養──聖獣の力を肉体に蓄積することの出来る器、皿、杯──を備えており、肉体に蓄積した聖獣の力が、その死──肉体から魂が剥離すると共に一斉に解放される』  その結果と、先刻より交わされる会話の内容を鑑みれば、リリアにとってソレイアとカレンの狙いは明白であった。  ──正当な訓練を受けた霊術士である自分が死に瀕した場合、発現する霊術的な現象の規模は、術士の能力に比例して強力となるのではないか?  そして、その力を邪なる方法を用いて、自らに取り込もうと考えているのではないか?  恐らく──いや、間違いなくソレイアは、それを狙っている。  即ち、今のソレイアに自分は殺せぬ。霊術士の自然死に拘っているが故に。  リリアはそう結論付けていた。  直接手を下せぬ事情がある者に、幾ら脅迫をしようとも、ただの虚仮脅しに過ぎぬ、と。 「自分の立場というものを、理解せねばならないのは──むしろ貴女のほうね」  リリアがその顔に笑みを浮かべた。だが、その表情の変化たるや弱々しく、ソレイアやカレンに対する挑発には至らぬ。  だが、霊術士は続けた。眼前の敵に怒りをぶつけるかのように。そして、おのれの霊術士としての誇りを示すかのように。 「聖都を奪還せんと、東より進軍を始めている騎士団や神官戦士団も、あと数日もすれば辿りつき、都を包囲するに至るはず。やがて、断罪の刃は貴女を滅ぼすことでしょう。その誰にも覆す事のできぬ窮地に立たされている貴女がすべきなのは──無駄な足掻きは止め、今までの罪を悔い、そして、騎士の刃にかかる覚悟を決める事なのではありませんか?」
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