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「違うわね」ソレイアは決然と言い放ち、答えた。「たとえ騎士の刃にかかる事が、私の運命だというのならば簡単にこの命を狩らせるものか。存分に足掻き、名誉や秩序の名のもとに殺傷を行う公僕や、神の遣いを僭称する妖教徒どもに、このソレイアの名を未来永劫忘れる事の出来ぬほどの悪夢をみせてやろう。世界に大きな傷跡を遺して、この世を去ってやろう──私を討った事を後悔する程に」
語るソレイアの表情には、一切の苦悩めいた色はなく──むしろ恍惚としていた。
そして、最後にこう付け加えた。
「そう──その為に貴女がここに存在しているのですから」
「そんな事の為に貴女達は、沢山の子供達を、ホムンクルスとされた女性達を攫い──殺めたというのですか?」
リリアが非難の声をあげた。
「ええ、そうよ」ソレイアが即答する。それを聞き、青褪めたリリアの顔色に少しだけ血の色が差し込んだ。
怒りの為の上気であった。
「そうはさせません。必ずや私が聖獣の魂を浄化し、その卑しき野望を潰えさせてご覧にいれましょう……」
だが、怒りの為に込み上げた力も、一瞬の活力に過ぎなかった。衰弱しきった心身を鼓舞させるには至らず、リリアの身体は崩れ落ちるかのように力を失った。
両腕を縛る銀の鎖が再び軋み声をあげ、霊術士の身体を支えた。
立つことも叶わず、倒れる事も叶わなかったリリアは、やがてぐったりと項垂れ、気を失った。
最後に仲間にして親友たる二人の聖騎士と、一人の神官。そして最愛の母の姿を脳裏に浮かべながら。
その様を公国の主と錬金術師は冷淡な眼差しをもって視認するや、厳しい表情をもって、互いの顔を見合わせた。
そして、公国の主ソレイアは、配下たる錬金術師カレンに問うた。
「──戦況は?」
「騎士団は、第二の砦へ向かって進軍を始めている模様です。明日中には攻撃を開始するものと思われます」
「……思った以上に早いわね」言葉の内容とは裏腹、ソレイアの口調は淡々としていた。「最初は十日ほどで聖都に到着するものと考えていたけれど、このリリアという娘が我々の手に落ちたと知って、強行軍に出たのかしら?」
「恐らくは、この女の体調を考慮した行程に切り替えたのでしょう」
答える錬金術師の口調もまた、淡々としたものであった。
「そう考えると──」ソレイアは数瞬ほど思案する。「あと四日か、五日といったところね」
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