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父親は、ようやく立ち止まった。
目的地に辿り着いたのだ。
そこは、赤子を殺すための場所ではない。
父親の目の前には、家があった。
森の中にひっそりと、
一軒だけある。
木で造られた簡素な家だ。
ドアをどんどんと乱暴に叩く。
ドアは、すぐに開いた。
顔を見せたのは、
体躯のいい男だった。
その男は、赤子に視線を落とす。
「来たか」
「ああ、約束通り、頼む。コルスト」
父親は、コルストという男に、
抱いていた赤子を差し出した。
「出てこい、セラ。あの男だ」
コルストは、家の奥に向かって、声を掛けた。
足音がして、女が出てきた。
コルストの妻のセラだ。
そのセラが赤子を受け取った。
「かわいい子ね。眠っているわ」
「シーラと言います。世話をしてやってください。
どうか、お願いします」
父親は、頭を深々と下げた。
「わかっています。
心配しないで」
セラは、優しく言った。
「すぐに戻らなくてはなりません」
父親は、再度、頭を下げ、集落の方を向いた。
数歩、歩くと、立ち止まり、振り向く。
名残惜しそうに、赤子を見つめると、
集落に向けて、駆けだした。
父親は、予め、あの夫婦と打ち合わせていた。
いけないことだと、
集落の決定に背くことだとわかっていても、
むざむざ殺させることはできなかった。
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