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母はとうに亡くなっていた。
心か体 、あるいは両方の弱い人で、雪溶けを待たずに庭の池に浮いていた。
雪の薄く積もった赤い背中を覚えている。
その夜からしばらく大人はみんな黒い服だったから。
八歳だった。
もちろん悲しくないわけはなかった。
でも、もともと光に溶けてしまいそうな人だったので
学校から帰ると消えてしまっていないか心配していたので
少しホッとしていた。
居なくなることに怯えなくていい。
読経の間は池にいた。
庭の池はそう大きくなく、浅かった。
藻や苔もなく底まで見えた。
小石を投げると水紋が広がり、また一つ投げると先の環を打ち消すように水面が持ち上がった。
環が途切れないように、幾つ投げたのかわからない。
耳が読経にさらされている間、動かない視界……おかしな表現だけど視界の沈黙が怖かったんだと思う。
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