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3日目の夕暮れ。
怪我で倒れて村に運び込まれたケンは、目を覚ますと皆に言った。
――――すぐに逃げろ。怪物がやって来る。
男達は篝火を煌々と焚き、夜を徹して村を見張った。
しかし怪物はやって来なかった。
朝になって疲れ果てた村人達は、ケンを酷く叱った。
「狼なんて来ないではないか。怪物だっていやしない。お前は三度同じ嘘を吐いた。もう誰もお前を信じないぞ」
その日の夕暮れ。
ケンが牧場に帰ると羊が一匹残らず消えていた。
――――まさか。
家に入りケンは愕然とした。
赤黒く染まったベッドの上に祖父の姿は無く、壁には血で文字が書かれていた。
“また来るぞ”
3日目の夜、ケンが村に居る間、空腹に耐え兼ねた怪物は祖父と羊達を食べたのだ。
ケンが窓から丘を覗くと、遠くから怪物がこちらへと近付いて来るのが見えた。
――――この身体ではもう戦えない。
自分の死を悟ったケンは、家を出ると村に向かって叫んだ。
喉が張り裂けんばかりの大声で言った。
――――怪物が来るぞ! 狼の姿をした怪物が来るぞ!
その声を聞いた村人達は言った。
「狼少年がまた嘘を吐いている」
~おしまい~
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