10年間の距離

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「龍一ってば絶対、私を太らせる気なのよっ」 美百合は相変わらず皆人にくっついたまま、理由を話しだす。 「太らせて、それでいつか食べちゃう気なんだわ」 いやもうあんた、喰われてるしね……。 下品な冗談は口にはしない。 「そんなつもりはないと、何度も言っただろう。それにお前はちっとも太ってないじゃないか」 龍一も声を荒げる。 こんな龍一はめずらしい。 どんなにいきり立った敵と対峙しても、龍一は余裕の笑みを絶やすことなく、辛辣な言葉でやり返すのが常だ。 それでも、 「イヤなら食わなきゃいいんだ」 余計なひと言を言うクセは変わらないらしい。 美百合はたちまち、真っ赤になってぶんむくれた。 「だって龍一ってば、私の好物ばっかり目の前に並べて……。 そんなの我慢しろって方が無理よ。龍一のばかぁ!」 元気よく叫ぶ。 美百合は泣いているけれど、皆人の想像した『泣いてる』とは、またちょっと違う。 早い話が、バカップルの痴話げんか。 なんだかしみじみアホらしくなって、 「あの、みゆっち。俺もう帰りたいんだけど」 おずおずと口を挟んでみた。 とにかく、龍一の居場所はわかった。 後はこのホテルを桜庭に知らせれば、皆人のミッションは無事クリアだ。 ほんの一言、龍一から礼が欲しいだなんて無謀なことを望んだばかりに、まったくとんでもないことに巻き込まれた。 「話し合いなら、俺が帰ってから、ゆっくりやってくんない?」 「帰っちゃダメ、皆人くん!」 「帰るな皆人」 「……なんで?」 皆人の淡い希望は、美百合と龍一のふたりから却下された。
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