10年間の距離

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幸い皆人がかけた電話に、龍一は出てくれた。 この電話番号が、 「特別ボーナスだ」 と桜庭が渡してくれたメモにある新しい番号だったから、それが無ければ、しょっぱなから途方にくれていただろう。 「もし、もーし!」 通話が繋がっても無言の相手に、とりあえず声を張り上げる皆人への返事が、 「なんの用だ?」 兄、龍一のえらく愛想のない声。 「かわいい弟にその言い草はないんじゃね。怪我したって聞いたから心配して電話してるんじゃねーか」 だが皆人の目論みぐらい、お見通しなのか、 「誰に頼まれた?」 龍一の声は尖っている。 皆人は返事を迷って、結局、 「桜庭さん」 本当のことを言った。 敵わぬ相手なら、早々にホールドアップした方がいい。 無駄に抵抗するなんてめんどくさい。 すると電話の向こうで龍一の舌打ちが聞こえ、あっという間に通話は切られた。
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