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改めてかかってきた龍一からの電話は、ナンバー非表示だった。
加えて龍一たちが滞在しているホテル名を教えるのに、
「信用できる店から、ありったけの花を買ってこい。それが条件だ」
龍一の指令はとんでもなく厳しい。
「なんで俺が?」
「見舞いに、花はつきものだろ」
涼やかな声でそう言われれば、当然のことすぎて反論も出来ない。
薄給の皆人は、書いてもらった領収書を大事にポケットに入れて、かろうじて涙を堪えていた。
とにかく、今持てるだけの花束を抱えて、教えられたホテルの廊下を歩き、部屋のインターフォンを鳴らす。
重厚な木製のドアの向こうに立つ人の気配を感じて、皆人が台車から離した手をひらひらと振れば、
鍵とチェーンが外される音がし、内開きのドアがゆっくりと開いた。
ドアを開ければ、皆人の抱えている花も負けないくらいの良い香りが漂って来る。
そして部屋の中から、白いバスローブ一枚だけの、なんとも悩ましい姿の男が現れた。
薄茶の髪に茶色の瞳。
皆人とは血の繋がった兄弟のはずなのに、こちらはひと目でハーフだとわかる整った顔立ち。
そして、
「何をぼんやりしてるんだ皆人。抜けてる顔がますますマヌケに見えるぞ」
口を開けば毒舌の、皆人の兄、有坂龍一だった。
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