10年間の距離

4/20
38人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
改めてかかってきた龍一からの電話は、ナンバー非表示だった。 加えて龍一たちが滞在しているホテル名を教えるのに、 「信用できる店から、ありったけの花を買ってこい。それが条件だ」 龍一の指令はとんでもなく厳しい。 「なんで俺が?」 「見舞いに、花はつきものだろ」 涼やかな声でそう言われれば、当然のことすぎて反論も出来ない。 薄給の皆人は、書いてもらった領収書を大事にポケットに入れて、かろうじて涙を堪えていた。 とにかく、今持てるだけの花束を抱えて、教えられたホテルの廊下を歩き、部屋のインターフォンを鳴らす。 重厚な木製のドアの向こうに立つ人の気配を感じて、皆人が台車から離した手をひらひらと振れば、 鍵とチェーンが外される音がし、内開きのドアがゆっくりと開いた。 ドアを開ければ、皆人の抱えている花も負けないくらいの良い香りが漂って来る。 そして部屋の中から、白いバスローブ一枚だけの、なんとも悩ましい姿の男が現れた。 薄茶の髪に茶色の瞳。 皆人とは血の繋がった兄弟のはずなのに、こちらはひと目でハーフだとわかる整った顔立ち。 そして、 「何をぼんやりしてるんだ皆人。抜けてる顔がますますマヌケに見えるぞ」 口を開けば毒舌の、皆人の兄、有坂龍一だった。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!