10年間の距離

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部屋はバーカウンターが備え付けられた立派なリビングルーム。 奥にまだドアが続いているところを見ると、ベッドルームは別なのだろう。 この部屋で、龍一はもう何日も過ごしているそうだ。 『ここ一泊いくらだよ』 思わず舌打ちしながら、皆人は辺りを見回した。 部屋の中には、花が溢れんばかりに生けられている。 それは皆人が配達するまでもなく、見舞いにしても尋常な量ではない。 リビング中が花まみれだ。 「なに兄貴、ここで花屋でも開業する気?」 皆人の問いに、龍一は、 「美百合が少し花に脅えるんでな。今、リハビリ中なんだ」 と、意味不明な言い訳をした。 すると突然、龍一がバスローブを脱いだ。 勢いよく脱がれたその下から現れたのは、龍一の逞しい裸身。 肩や腕に巻かれた包帯が白く痛々しいが、それでも均整の取れた鍛え上げられた肉体だ。 病身の透けるような顔色とのギャップに、思わず心臓が跳ね上がる。 「な、なんでいきなり脱ぐんだよ」 龍一は怪訝そうに眉をひそめる。 「お前が何て格好だと言うから着替えるんだが、文句でもあるのか?」 そう言って、脱いだバスローブを無造作にソファーに引っ掛け、カジュアルなチノパンに長い足を通す。 シャツを目で探しながら、上半身裸のままで、皆人に近づいてきた。 皆人には、かわいい『乃亜』という奥さんがいる。 奥さんがいるが、一瞬、血迷いそうになった。 俺は断じて、女の子が好きだかんね! 心の中で、懸命に叫んでみる。
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