10年間の距離

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龍一は、皆人のすぐ脇のソファーの背もたれに目当てのシャツを見つけ、 すくうように拾うと、端をちょっと噛んで、左手を通して羽織った。 右腕がまだ不自由だからだろうが、その仕草がたまらなく男っぽい。 「ご苦労だった。もう帰っていいぞ」 そして、大枚をはたいて花を買ってきた皆人に寄こすのは、とてつもなく上から目線の一言だけ。 つい、 「あんた、他に言うことあるんじゃね?」 なけなしの意地で文句を言ってみたら、 「なんだ? キスでもして欲しいのか?」 返ってきたのは、龍一の妖艶な笑みと共に笑えない冗談。 思わず、  ――倒れそうになった。 「……確認したくもないが、冗談だぞ」 龍一が不快そうに言うのが、なおさら腹がたつ。 「兄貴の冗談、相変わらず致命的に面白くないんだよ。 それよりみゆっちは? 寝てんの?」 強引に話題を変えた。
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