【2】一番はイヤです。

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「こんな所でどうしたんだよミノリ。あ、俺は合コンの店への近道だから、よくここ使うんだけどさーってあれ、この人は?」 男に視線を移し、怪訝な顔をする。 「なにこの、TVとかにいても違和感なさそうなイケメン」 「・・・知らない、道を聞かれたんだ」 「あ、あー」 猫を抱える男を見つめ、面白がるように頷いた。 「なあんだ、てっきりシュラバかと思った」 「はあ?」 「女の取り合いとかしてんのかなーってさ、思うじゃん、イケメン二人が並んでたらさ」 ある意味別種の修羅場だったけども。友人の乱入のせいで一気に場が冷めてしまった。 「ミノリ」 しかも、名前を知られてしまった。ああもう、最悪だ。 「ミノリ」 再度男が俺の名前を呼ぶ。 「ああもう、なに!?早く店もどれよ!」 「ミノリ、すっ」 好きだ。 そう言いかけた男の唇を、手で塞ぐ。 “黙れ!!” 目でそう訴えると、男は肩をすくめ、息を吐いた。隣に立つ友人が興味津々という顔で俺たちを見てくる。 「~~っ、ちょっと来い!」 男の腕を引き、友人から逃げるように路地を去った。 路地を真っ直ぐ行き、十字路を右に進む。すると、大通りにでた。振り返るが、そこに友人の姿はない。 「ふう・・・」 「ミノリ、店にこい」 「はあ?」 行くわけないだろ。よくも知らない、というか知りたくもないお前の店なんかに。 俺の顔から拒絶を読み取った男は、俺の腕に猫を押し付けてきた。 「え?!」 「シャークという」 「あ、そう」 「俺の店で一番のイケメン猫だ」 「・・・」 イケメン猫を抱いて、俺に何をしろと。 癒されるのか、癒されればいいのか。 すぐに返却しようとしたが、猫に罪はない。なるべく乱暴にしないように男に近寄った。 「ほら、俺、動物飼ったことないから、扱い方わかんないんだって」 そういって猫を差し出すが、男はそれを無視して大通りの道を進んでいってしまう。 「あ!おいこら!」 猫が閉じていた瞼をゆっくりとあげて俺の顔を見てくる。 「あ、悪い、うるさかったか」 音量を落とし謝ると、また猫は瞼を閉じた。 (って!そうじゃないだろう!) このまま猫をおろすのは、だめだよな。 (くそっもう、なるようになれ!) すでに遠くなりつつある男の背中を見つめ、走り出した。
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