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「ミノリ」
「お、お前・・・」
熊原秀人だった。
コンビニ袋を手に、俺を見つめてくる。ジャージのような、普段着っぽい服装ですら様になっている熊原にイラついた。
(なんだよ、嫌味か、そのかっこよさは)
自分がなんだかみじめになる。同じ男なのに、こうも差が出るのか。
(しかも・・・)
さっき店に行ってしまった分、居た堪れない、恥ずかしさが襲ってきた。
「人違いじゃないすか」
俺がそのまま無視しようとしたら、腕をつかまれた。
「ちょっ、なにす」
「ミノリこれから暇か」
「ひ、暇じゃない!」
「そうか」
否定したのに、熊原は俺をコンビニの外へと引っ張っていく。
「お、おい!聞いてるのか!俺は!」
「聞いてる、暇なんだろう」
「暇じゃないって言っただろうが!!」
「俺は嘘を見抜ける」
「なっ」
当たり前の事のように、物凄いことを言われてしまった。
(う、うそが・・・見抜けるって・・・?!)
そんな恐ろしいことができるのか、と言葉を失っていると
「っふ、純粋だな」
喉を鳴らすように熊原が笑った。
「!!な、な・・・騙したな!!」
「騙してはいない、ほら、こっちだ」
ぐいぐいっと腕を引かれ、コンビニの駐車場の奥へと連れ込まれる。
(い、一体、何をする気だ???)
今度こそ俺は何かされるのか、と身構えた。
けれど、それはまた杞憂に終わる。
―――わん!
「!!」
「散歩、一緒にどうだ?」
どうやら犬の散歩の途中だったようで、コンビニの駐車場には柴犬のウルフ(だっけ?紛らわしい名前だな・・・)がお座りして待っていた。
俺と熊原を見つけると、嬉しそうに尻尾を振り、近寄ってくる。
―――わんっわん!
「!!」
俺が、鳴き声に一歩後ずさると、背中をとんっと押された。それから撫でるようにさすってくる。
「大丈夫、ウルフは噛まない、怖がらなくていい」
「・・・っち、ちが!!怖くなんか!」
俺の無意識の怯えを見透かされたみたいで、恥ずかしかった。
(どうして)
どうしてこうも、この男は俺の事を掻き乱すんだ。
(どうして一緒にいるだけで、こんなに慌てなくちゃいけないんだっ?)
「怖くない!散歩も全然できる!」
「そうか」
リードを渡されて、それを奪い取るように受け取った。
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