【3】一番はイヤです。

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「ウルフは店に来たばかりなんだ」 「・・・」 「夜鳴きが酷くて、こうして散歩するようにしてる」 街路樹の間をぬけながら俺たちは散歩していた。 「散歩をすると健康にもいい、犬はストレス発散にもなる」 夕日に照らされる道を歩きながら熊原が一方的に話し続ける。けれど引っ切り無しに話しているのではなく、ぽつりぽつりと必要なことを語りかけるように呟くのだ。 だから、耳障りではなかった。 逆に、呟きを、待っているぐらいだった。 「・・・」 ふと、横が静かになる。どうしたのだろうと横に視線を移すと 「・・・」 夕日に照らされ、ただ立っている姿ですら、まるでドラマのワンシーンかのように美しく彩られていた。 (ほんと、美形、だな・・・) その横顔に見蕩れていると、ふと熊原が動き出した。 「あ、おい?」 急いで追いかける。熊原はとある街路樹の下で膝をついた。そして地面に手を伸ばす。 「・・・」 「あ・・・」 熊原がすくい上げたそれは、鳥の雛の死骸だった。多分、木の上の巣から落ちて死んでしまったのだろう。街路樹の上の方にそれらしき巣があった。 「可哀想に・・・」 俺がそう呟くと、熊原は頭を横に振った。 「違う、これは自然淘汰だ」 「・・・え?」 「自然の摂理、弱いものは淘汰され、地に還る」 「そん・・・」 そんなヒドイこと言うなよ。そう、言いかけて、止めた。 (え・・・?) 俺は息さえ忘れてその横顔を見つめる。 「だから、悲しむのはお門違いだ」 「熊原・・・」 「こいつは精一杯生きた」 「・・・なん、で」 「よく頑張ったな」 なんで、なんでお前が泣いているんだ。 熊原は表情は先ほどと変わっていなかった・・・けれど、眩しいほどまでに美しい一筋の涙を頬に流していた。 (熊原・・・お前、) 俺は、見てはいけないものを見てしまった気がして、とっさに目をそらす。 だけど、気になって、もう一度熊原のほうを見た。 その時にはもう、涙は消えていた。 雛を街路樹の下に埋葬し、近くの公園で手を洗った。 お互い何も言わず、不気味なぐらい静かな空気が俺たちを包む。 (空気が、重い・・・) 手持ち無沙汰な腕をぶらぶらとさせていると、股の間に柴犬が顔を突っ込んでくる。 「うわあっ」 間抜けな声をあげて驚く。
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