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「ウルフは店に来たばかりなんだ」
「・・・」
「夜鳴きが酷くて、こうして散歩するようにしてる」
街路樹の間をぬけながら俺たちは散歩していた。
「散歩をすると健康にもいい、犬はストレス発散にもなる」
夕日に照らされる道を歩きながら熊原が一方的に話し続ける。けれど引っ切り無しに話しているのではなく、ぽつりぽつりと必要なことを語りかけるように呟くのだ。
だから、耳障りではなかった。
逆に、呟きを、待っているぐらいだった。
「・・・」
ふと、横が静かになる。どうしたのだろうと横に視線を移すと
「・・・」
夕日に照らされ、ただ立っている姿ですら、まるでドラマのワンシーンかのように美しく彩られていた。
(ほんと、美形、だな・・・)
その横顔に見蕩れていると、ふと熊原が動き出した。
「あ、おい?」
急いで追いかける。熊原はとある街路樹の下で膝をついた。そして地面に手を伸ばす。
「・・・」
「あ・・・」
熊原がすくい上げたそれは、鳥の雛の死骸だった。多分、木の上の巣から落ちて死んでしまったのだろう。街路樹の上の方にそれらしき巣があった。
「可哀想に・・・」
俺がそう呟くと、熊原は頭を横に振った。
「違う、これは自然淘汰だ」
「・・・え?」
「自然の摂理、弱いものは淘汰され、地に還る」
「そん・・・」
そんなヒドイこと言うなよ。そう、言いかけて、止めた。
(え・・・?)
俺は息さえ忘れてその横顔を見つめる。
「だから、悲しむのはお門違いだ」
「熊原・・・」
「こいつは精一杯生きた」
「・・・なん、で」
「よく頑張ったな」
なんで、なんでお前が泣いているんだ。
熊原は表情は先ほどと変わっていなかった・・・けれど、眩しいほどまでに美しい一筋の涙を頬に流していた。
(熊原・・・お前、)
俺は、見てはいけないものを見てしまった気がして、とっさに目をそらす。
だけど、気になって、もう一度熊原のほうを見た。
その時にはもう、涙は消えていた。
雛を街路樹の下に埋葬し、近くの公園で手を洗った。
お互い何も言わず、不気味なぐらい静かな空気が俺たちを包む。
(空気が、重い・・・)
手持ち無沙汰な腕をぶらぶらとさせていると、股の間に柴犬が顔を突っ込んでくる。
「うわあっ」
間抜けな声をあげて驚く。
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