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「遊んでと言っているみたいだな」
熊原はそういいながら、公園のベンチに腰掛け、俺と犬を眺めてくる。
「あ、遊ぶって、なにをしたら・・・」
「そこに落ちてる枝を投げてやったらいい」
「え・・・あ、これ」
足元に落ちていた小さ目の枝を、誰もいない砂場の方に向けて投げた。
―――っひゅ!
音を切るかのように、枝は飛び上がり、公園の端までとんでいった。
―――わん!
その枝を、犬が迷わず追いかけていく。そして着地点でジャンプをして枝をうまくキャッチした。
「すごい!」
無意識にガッツポーズをとっていた。それを微笑みながら見つめてくる熊原。生暖かい視線に気付いた俺は、すかさず腕を下ろし奴に背を向けた。
その頃には犬が戻ってきていて、枝を俺に押し付けてくる。もう一度、投げて欲しいんだろう。流石の俺も犬の気持ちが理解できて、枝をまた遠くへと投げた。
投げては持ってきて、投げては持ってきて。
それを30分ほど繰り返し、俺も犬もへとへとになって疲れきった。
「いい運動だったな」
「おまえ、も、ちょっとは、ゼえっ、ハア、やれよ!」
「俺はいつもやってる」
息も絶え絶えの俺からリードを奪い、犬に結びつける。そして、帰るぞと言ってきた。
「ミノリ、家は近いのか?」
「・・・」
「帰れるか?」
「こんな大都会で迷うわけないだろ、お前と一緒にするな」
「そうか」
そうして、また頭を撫でられた。俺は犬じゃない、お前の店の動物達と一緒にするな。
「熊原」
そう言ってやろうとしたのに、出てきた言葉は思ったよりも柔らかかった。
「ありがとう」
「?」
目を丸くして、俺の顔を見つめてくる。一瞬あと、俺も飛び上がるように驚いた。
(え、えええ?!俺、なに、何言ってんだ??)
ありがとうって。何がアリガトウなんだ。何の礼だ。自慰で使わせてもらったお礼・・・なわけ、ないよな。
そこで、混乱した頭に雛の事がちらつく。俺はとっさに、ごまかすように取り繕った。
「いやーあのー、そう、雛が!言ってると思ったから、ありがとうってさ!」
「・・・」
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