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「はっ」
何をバカな、と男は笑った。
「ダメに決まっているさ。だが」
男は腰を浮かせてカクカクと器用に俺の弱い部分を責めてくる。
「くうっ、あああっ、あ…っ」
俺は一気に力が抜けてしまい、男に寄りかかった。男の汗ばんだ胸板に頭を擦り付けただ快感に身を任せ体を動かす。
男が俺の頭を撫でてきた。
「君が黙ってくれていれば、何の問題もない」
「はあっ、はあっ、あっ…ん…うう…」
「それに…あくまでも私が愛しているのは優希だ」
優希。それはこの男の恋人らしい。先ほど会ったばかりの男だが、色々な対策のためにもある程度の情報交換はしている。その時の食事とここのホテル代は奴持ち。
俺はその代わり体で男を満足させる。
とてもシンプルで、淫らな関係だ。
「まあ、君も嫌いじゃない。特に体は最高だ。優希とやっていて、これほどできたことはない。」
「んんっ、あぅ、…そーか、よ…んっ」
それは何より。俺もそこそこに満足してる。最高、というほどではないが。
「しかし、君も変わっている、どうして金を受け取らない?」
俺はこの行為の前にそれなりの額の金を渡されていた。いわゆる体の料金。こういう風景ではありがちな流れだったが、俺はものの数秒でそれらの金を返却した。不思議そうに目を瞬かせ男は頭を傾げていたが、行為の後に受けとるのだろうと勝手に納得したようで、すぐに気を取り直して俺をベッドに押し倒してきた。
そして今に至る。
「安心しろよ、口止めとかそういうのは、いらないし…する必要もない」
「?」
「俺は、恋人を作らない主義なんだ」
「ほう?」
男はあれだけ激しかった行為を止めて俺の言葉に耳を傾けている。俺は少し体を後ろに倒し、戯れに男の腹筋を指でなぞりながら言葉を探す。
「いや、言い方が悪かったな…そうじゃない、なんていうんだ?うーん、そう。誰かを愛してる人間が好きなんだ」
「誰かを愛してる…つまり恋人のいる人間を好むと。君はなかなかに良い趣味をしている」
「あんたもな」
クスりと笑って、中でドクドクと脈打つ男のそれを締め付ける。ごくりと喉をならし俺を見つめてくる男の顔は完全に欲情しきっていた。
恋人でもなんでもない赤の他人に欲情させる。
恋人を愛すると言いながら。
「最高だよね」
「そうだな、確かに最高に気持ち良い」
噛み合っているようで噛み合ってない俺たちの会話はそのあともしばらくは続いた。
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