【1】一番はイヤです。

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「最後に君の名前を聞いていいかね」 シャワーから出てくると、男がそういって近寄ってきた。(男はさきにシャワーをすませている。)俺はシャワー後なので真っ裸だが、男はすでに来たときと同じ姿になっており完璧に身なりを整えてある。 俺は無意識に顔を歪めていた。 男にとってもやることはやったのでここに残る必要はないはず。さっさと帰ればいいのに…なんて心で呟きながら、無造作に自分の濡れた髪をタオルで拭いた。俺の無反応を見て、男は焦れたようにもう一歩近づいてくる。 「君も、これっきりにするにはもったいないとは思わないかね?」 「…思わない」 「私では満足できなかったのか?」 「そうじゃない」 さっきも言ったろと釘をさし、前に立ち塞がる男の体をどかす。とことこと廊下を濡らしながら進み、ベッドのしたに脱ぎ散らかした自分の服を拾った。どさりとベッドに腰掛け、裏返ってる衣服を元にもどしながら口を開ける。 「俺は恋人が作りたくてコンナコトをしてる訳じゃない、もちろん金が欲しいからでもない」 「わかっているさ、割りきった関係を求めてるのだろう?ならば問題ない、私は…」 「情がわいたらどうする」 「え?」 靴下をはきながら、小さな声で呟いた。男はよく聞こえなかったという顔をして近づいてくる。 「何度も体を重ねていくうちにもしも、あんたの愛情が俺に向いたら?そう考えるだけで、吐きそうだ、胸くそ悪い」 「もしかして、君は優希に義理立てしてくれているのかな」 「べつに、そーじゃない」 もう片方の靴下が見つからずうろうろとしていると、男が右手を差し出してきた。その手には俺の探し求めていたもう片方の靴下があった。 「ども」 手を伸ばし受け取ろうとしたら、ひょいっと避けられた。 「は?」 何をする、と睨み付ければ男は楽しそうに笑い俺を抱きしめてきた。スーツから香水の甘い香りが漂ってくる。 「大丈夫、私が愛しているのは優希だけだ」 ならばここで抱きしめるべきは俺じゃない。 そう咄嗟に思ったが、言葉にすることはできずそのまま抱かれるままになっていた。それからしばらくして肩を掴まれ、やや体が離れたと思った次の瞬間、顎をくいっと上に向けられる。
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