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「!!」
近づいてくる男の顔にぎょっとして、急いで両手を顔の前にだす。おかげで俺の唇にあたるはずだったその柔らかい感触はシャワーで濡れたままの両手に触れることになり…それに気づいた男はすぐさま目を開けて抗議するように睨み付けてきた。
「なにをする」
それはこっちの台詞だ。
「俺言ったよな、キスはしないって」
「…ああ、すまなかった、つい忘れていたよ」
「ふん。あと俺、そろそろ次の男のとこにいかなきゃだから、はなしてくんない」
「な…」
まだやるつもりか、と一瞬引いたのを狙って、俺は男の腕の中からするりと身を捩って抜け出した。
一度ベッドに戻り、枕元に置いておいた貴重品と携帯を拾う。それから、先ほどとは逆の方向に廊下を進み、部屋に唯一ある扉に近づいた。
もう追ってくる気配はない。
それにほっとして俺はドアノブに手を伸ばした。
恋人も愛人もいらない。
金もいらない。
欲しいのは
快感と一時のぬくもりのみ。
そんな俺はおかしいのだろうか?
自問自答しながら俺は疲れた体を引きずるようにして家に帰るのだった。
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