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「見つけた」
そんな言葉が降ってきた。
(え・・・?)
そして、次の瞬間・・・
―――がばっ
誰かに抱きつかれていた。
力強い腕、熱い胸板、すぐに男だとわかった。顔を上げれば、目の前に驚くほど整った顔があり、じっとこちらを見ていた。硬派そうな顔のくせに瞳の光は強く、見つめているだけで、射止められてしまいそうだった。
「なっ・・・離れろ!」
腕の中で暴れて、男を押し返そうとする。けれど、男は俺をはなそうとはせず、逆に力を込めてきた。
「おい!」
「動くな。」
抱かれたまま、瞳をさらせず男と見つめ合い続けていたら、男の手が俺の頬を擦る。
(え、えっ??)
そして、フードに手を突っ込んだ。
―――にゃあ!
黒猫を掴みあげる男の手。
「あっ」
「よし」
猫を抱きかかえ、満足げに瞳を和らげる男。
そこでやっと体が離れ、男の全身を観察することができた。
硬派な顔立ちを引き立てるような黒いシャツ、洒落たズボンに靴。けれどその腰には・・・可愛らしいくまの絵が書かれたエプロンがあった。
そのエプロンにはロゴが入っていた。
“ペットショップ くまくま”
「く、くまくま・・・」
この硬派な男がそんなエプロンを。
壮絶に似合わない。
似合わなすぎるそれらを言葉を失いつつ見つめた。
「あんた」
ふと男が口を開く。その男の声は、低くて、ジンと体の奥に染み入ってくるかのように心地いい響きだった。聞き惚れていると
「迷子か」
硬派な顔を少し間抜けに歪めて尋ねてくる。
「は?」
「いや、お前も迷子なのか」
「は?」
も?
お前、もしかして迷子なの??
こんな街中で??
「シャークを追いかけてたら、こんな所に来ていた」
「はあ」
「ここはどこだ」
ここはどこだ。
こんな風に堂々と格好良く、このセリフを言い放つ男ははじめて見た。いや、これほど格好良く言う男は他にいまい。エプロンといい言動といい残念すぎるイケメンだ。
(本当に、黙っていたら俺の好みど真ん中なのにな)
呆気にとられながらも、俺は携帯をあけアプリを立ち上げた。
「あんた、そこのショップの店員?」
エプロンを指差し聞くと、ああ、と男は頷いた。
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