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2 🌃とある深夜…
「えっ、僕ですか?」
…とある深夜、僕は半乾きのタンブラーをから拭きしながら、目の前のカウンターに座る女性客に聞き返した。
「そう。もう閉店でしょ?お願い。」
僕はちらりと腕時計に目をやる。。二十年物のOMEGAはもうとっくに閉店時間を回っている。
「いや、僕も少し飲んでますし…お車お呼びしましょうか?」
そう若くもないが、オバサンと呼ぶには失礼な、シックないでたちのスマートな女性。。一人でフラッと入って来た。飲んだのはジンバックとレッドアイ。
「いいじゃない。送って。車なんでしょ?」
僕はさっきまでの当たり障りのない会話の中で、車で来ている事を話してしまっていた。
「どうしてもですか?」
「どうしても。」
「片付けもありますし…」
「待つわ。」
やれやれ。話すのは確かまだ二度目のはずなんだけど。。
車のエンジンをかけて帰り先を聞くと、そう遠くでもない。
カー・オーディオから流れるStingの声を遮るように、小さいがとてもハッキリとした口調で彼女は言った。
「前にも話した事あるんだけどな。」
「覚えてます。」
「そう?嬉しい。」
こんな風にお客を送るのはもちろん初めてだし、しかも嫌いなタイプという訳でもない。内心、かなりドキドキしていた。正直、淡い期待感もある。Barではクールに努める僕もそこまで鈍感な男にはなれない。
…夜中の空いた道を10分ほど走らせたところで、彼女の言っていた辺りに着いた…
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