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第一章 会いたい。1
この世では、稀まれに百パーセント不可能に近い出来事が起こる時がある。
『俺と付き合って欲しい』
彼の言葉が、まさにそれだった。
高校一年生も、そろそろ終わりになろうかという冬の日。頭の中を言葉の矢がシュッと突き刺さって抜けていくような衝撃が走った。世界が一瞬、真っ白になったのは噓じゃない。
私にとっては、それほどありえないことだった。
───北条 礼(ほうじょう れい)。
それが、私の数十センチ前でズボンのポケットに片手を入れ、立っている彼の名前だ。
最後の授業はすでに終わり、部活動や塾へ向かうクラスメイトたちは、足早に教室を出て行った。
提出するプリントを持って職員室へ向かった親友の千夏(ちなつ)を教室で待っている間。リップクリームでも塗りに行こうかと雑に並んでいる机の間を通り抜け、ドアを開けた時、
「小早川さん」
ふわり、耳を掠かすめる春風のような声で北条礼くんに呼び止められた。
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