第3話

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「それは窃盗という名称の犯罪だ」 「通報してもいいよ。私が逮捕されたら、会社に私達の関係ばれちゃうね。あ、この際だからカミングアウトしちゃう?」 「・・・俺は全力で拒否させてもらう」 「カギ、返す?」 「返せ」 「返してもいいよ。家に帰るとスペアあるし」  私のそんなセリフに、  差し出していた大きな掌を無言で引っこめた。  プライベートの上司は、  いつもよりもキョリを近く感じられる。  職場とは違う空気。  すこし柔らか、  すこし優しく、  心地よい、  安心できる、  ゆるくてフシギなその空間。  仕事とプライベートは完全に区別。  オン・オフが完璧に出来ているから改めて凄いと思う。  居心地が良いと感じるその場所から、  すぐに帰る気にもなれず、  ベッドの上に乗せた顔を横にしてそのまま目を閉じる。  壁に掛けた時計の音が、  コチコチと部屋に響く。  静かな時間が流れる中、  眠そうな声でコトバが寄越された。 「・・・それで?」 「ん?」 「別れた報告に来たんだろう」 「うん・・・別れた」 「また叩かれたのか?」 「ううん、叩かれなかった」 「加瀬君と何日付き合ったんだ?」 「1週間、かな」 「最短記録更新か?」 「違うよ、最短は1日」 「おまえ、ばかだろう」 「酷い言い方」  半分呆れ、  半分タメ息、  半分放るように、  だけどその中にほんの少しの優しさが隠れてる。  それに気付いたのはごく最近。  友達以上、恋人未満の関係。  自分の恋が終わるたび、  やけに心地いいこの上司の体温が欲しくなる。  いつからか、  わざわざ別れた報告をしにここへ来るようになり、  話を聞いてもらって、  散々説教されて、  そのあとセックスするのが恒例になってた。  まったくもってヘンな関係。  目を閉じたままでふと言ってみる。 「今日・・・優君の親友だった人と会ったの」   「嫌味でも言われたか?」 「交際を申し込まれた」 「独身なのか?」 「うん」 「嫌じゃないなら付き合えばいい」
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