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第3話
どれくらい歩いた頃だろう。
背後から言葉が寄越されたのは突然だった。
「また1つの恋が終わっちゃったな」
振り向くと1人の長身の人物が立っていた。
「今回結構ホンキで好きになってただろ。俺、正直あせってしまった」
「どちら様ですか?」
「まさか婚約したての男を落とすなんて考えてもみなかった。完全に予想範囲外だった、驚愕だ、凄いな」
「随分詳しいのね、いつから私の監視してたの?探偵業にでも転職した?」
「1週間前の夜、カクテルバーからお前達が出てくる所を偶然見て、いつもどおり遠目で見てただけさ」
「どうして彼が婚約したてって分かるの?」
「友達の彼女がお前んとこの会社で派遣で事務の仕事してて、頼んで情報を流してもらったから」
そんな回答を、
まったく悪びれる様子なく、
平然と投げ返してくる。
身近にスパイがいるとは知らなかった。
尚人に言って派遣事務女をクビにしてもらおう。
「いつまでこんな恋愛続ける気だよ、お前見てるとイタイんだよ」
「見なきゃいいでしょ、私のコトなんて放っといて」
「相手持ちの男なんかやめろ、俺にしとけって何度も言ってるだろが」
「優君の元相棒と付き合えるわけないでしょ!」
「相棒、ってどっかのドラマじゃあるまいし。まだ優の事引きずってんのかよ、死んで2年になるんだぞ」
「まだ2年経ってない」
「四捨五入すると2年だろ」
「四捨五入なんかしたくない!大嫌い、あっち行って」
「お前そんなに優の事好きじゃなかっただろ、初めて会った時、俺の顔ばっか見てたくせに!俺のなにが気に入らないのか言えよっ」
興奮した声でそう言う相手に、
同じように興奮した声で言い返した。
「長身で爽やかでイケメンでモテて年収が高いところっ!」
「は?・・・それのどこが気に入らないんだよ、おいっ、待てよっっ」
「助けてくださいっ、あの人変態です、ストーカーです!」
追ってくる背後の人物を指さして、
歩道にいた見知らぬおじさんにそう言うと、
驚いてスマホを取り出し、
どこかに通報しようとしている様子を見て、
慌ててカレが制止する。
「うわっ、違う違います、俺は彼女の友人です!待てよ、薫っ!」
「呼び捨てにしないでっ、ばか春樹!」
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