#1 ~声~

4/8
前へ
/10ページ
次へ
<キキィ―――> 「!」 「ご、ごめんなさい・・・」 足の力を抜いてしまっていて、突然のカーブに上手く対処できず、私は正面にいる高校生に抱きつく様な形をとってしまった。 しかも男子の。 二つの意味を込めて、私はぺこりと頭を下げた。 カタンコトン、カタンコトン・・・ 電車のリズムは変わらない。 「大丈夫ですか?」 両肩に優しく触れて、彼は優しくそう尋ねた。 「大丈夫です。・・・あの・・・・・・」 ゆっくりと、私は彼から肩の方へ視線を移していく。 知らない人から触れられるのには、少し抵抗がある。 「え? あ、すいませんっ!」 この言葉から、彼には下心がないことが明白になった。 彼は少し気まずそうにしながら、遠くを見つめていた。 「あ、いえ、ありがとうございました」 ・・・親切な人で良かった。 タタンタタン、タタンタタン・・・ いつの間にか、降りる駅の二つ前まで来ていた。 タタンタタン、タタンタタン・・・ ・・・あれ、この音、何だろ。 電車が走る音とはまた別の音が、聞こえる。 昔から耳が良くて、結構距離があっても聞き取れる。 <♪~> こういうの、ロックっていうのかな。 それとも、バンド? そんな音楽が、近づいてくるのを感じた。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加