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音が大きくなってくる。
ひょっとしたら、こっちに来てるのかも。
私は首だけで後ろを振り返ってみた。
すると、少し黒が混じった赤髪の男性が立っているのが見えた。
黒のヘッドホン、毛先からちらりとのぞかせる耳たぶにはシルバーのピアス。
―――――この人の音楽か。
・・・音、漏れてるんですけど・・・・・・
髪の色も色だし、背も他の男の人に比べてだいぶん高い。
怖そうな人だなあ。
<タタンタタン、タタンタタン>
――――背中が触れるか、触れないか。
そんな距離に、その人はいた。
<タタンタタン>
こんなに窮屈なのに、どうして動くんだろう。
それに、動いてきたあたりさっきまで座席に座っていたのかもしれない。
つま先立ちで小さな身長を精一杯伸ばして、周りを見る。
・・・あ・・・・・・
人でギッシリ埋まっている座席の中に、一つだけ、ぽっかりと穴が空いているようなところを見つけた。
「・・・」
その席の横の手すりには、ハンドタオルでぱたぱたと顔を仰ぐ妊婦さんがいて、ゆっくりと腰かけようとしている。
お腹、結構大きい。相当きついはず。
優先席は、全部埋まってるのかな。
うっすらと疑問を浮かべながら、ふとその先を見上げると、そこには既に先客がいた。
お年寄りでもなく、妊婦でもなく、普通の学生とサラリーマンが何事もなく座っている。
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