#1 ~声~

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音が大きくなってくる。 ひょっとしたら、こっちに来てるのかも。 私は首だけで後ろを振り返ってみた。 すると、少し黒が混じった赤髪の男性が立っているのが見えた。 黒のヘッドホン、毛先からちらりとのぞかせる耳たぶにはシルバーのピアス。 ―――――この人の音楽か。 ・・・音、漏れてるんですけど・・・・・・ 髪の色も色だし、背も他の男の人に比べてだいぶん高い。 怖そうな人だなあ。 <タタンタタン、タタンタタン> ――――背中が触れるか、触れないか。 そんな距離に、その人はいた。 <タタンタタン> こんなに窮屈なのに、どうして動くんだろう。 それに、動いてきたあたりさっきまで座席に座っていたのかもしれない。 つま先立ちで小さな身長を精一杯伸ばして、周りを見る。 ・・・あ・・・・・・ 人でギッシリ埋まっている座席の中に、一つだけ、ぽっかりと穴が空いているようなところを見つけた。 「・・・」 その席の横の手すりには、ハンドタオルでぱたぱたと顔を仰ぐ妊婦さんがいて、ゆっくりと腰かけようとしている。 お腹、結構大きい。相当きついはず。 優先席は、全部埋まってるのかな。 うっすらと疑問を浮かべながら、ふとその先を見上げると、そこには既に先客がいた。 お年寄りでもなく、妊婦でもなく、普通の学生とサラリーマンが何事もなく座っている。
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