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・・・あの人、妊婦さんに席を譲ったんだ。
彼らにイライラしながらも、その彼の優しさが伝わってきて、すごく嬉しくなった。
「!」
不意に、胸がドキドキし始める。
それは、自分に驚いたから。
今まで他人に興味を抱いた事なんて、数える程しかない。
でも、これだけは絶対。
決して、興味がなかったわけじゃない。
仲良くなりたいとか、もっと話してみたいと思える人は、たくさんいた。
でも―――――
『お母さん、同窓会行ってくるから』
『お留守番よろしくね』
あの日以来、私は、“人を信じる”という事が、怖くなってしまった。
・・・違う。
信じるとか信じないとか、そういう次元の話じゃない。
もう、“信じようとしなかった”んだ。
「ふぅ」
そう思った時。
突然、あの日の光景が脳裏に浮かんできた。
モノクロではなく、はっきりとした色を付けて。
薄暗いアパートの部屋、差し込んできた夏の日差し、母の冷たい目、知らない男性の声―――――
今でも、昨日のことのように焼き付いてる。
・・・なんだろ、これ。
頭がくらくらして、目の前の視界が歪んでいく―――――
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