#1 ~声~

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・・・あの人、妊婦さんに席を譲ったんだ。 彼らにイライラしながらも、その彼の優しさが伝わってきて、すごく嬉しくなった。 「!」 不意に、胸がドキドキし始める。 それは、自分に驚いたから。 今まで他人に興味を抱いた事なんて、数える程しかない。 でも、これだけは絶対。 決して、興味がなかったわけじゃない。 仲良くなりたいとか、もっと話してみたいと思える人は、たくさんいた。 でも――――― 『お母さん、同窓会行ってくるから』 『お留守番よろしくね』 あの日以来、私は、“人を信じる”という事が、怖くなってしまった。 ・・・違う。 信じるとか信じないとか、そういう次元の話じゃない。 もう、“信じようとしなかった”んだ。 「ふぅ」 そう思った時。 突然、あの日の光景が脳裏に浮かんできた。 モノクロではなく、はっきりとした色を付けて。 薄暗いアパートの部屋、差し込んできた夏の日差し、母の冷たい目、知らない男性の声――――― 今でも、昨日のことのように焼き付いてる。 ・・・なんだろ、これ。 頭がくらくらして、目の前の視界が歪んでいく―――――
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