温泉編

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本当なら駆け出したい。 逃げだしたいのだが、 「おとなしいじゃないか。観念したのか?」 ――動けない。 皆人は仕方なく、その場で両手をあげた。 ホールドアップ。 すると男は近づいてきて、 「殊勝な心がけだな」 腕を伸ばしてきた。 「やめろ!」 皆人は怒鳴る。 男はちょっとびっくりしたようで、動きを止めた。 「俺に触るな」 今少しでも触れられたら、その場に派手に転んでしまいそうだ。 それぐらい危ういバランスの上に皆人は立っている。 せめて後1分。 「触るんじゃねぇ」 これ以上ないほど、ドスの効いた声で皆人は言った。
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