スキー場編

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皆人は、気に入らないと唇を尖らせた。 「なんだよー。初めてんときは、ろくに立ちもしねーで、ただ必死で疲れちまうのが、スノボの醍醐味なんだぜ。 それをフツーにこなしちまうなんて、兄貴ってば、面白くねーの」 こっそり練習していた、皆人の経験が言わせるらしいが、 「お前の初体験なんて知らん」 龍一の返答は素っ気ない。 場所が昼間のスキー場でなければ、男子高校生のような会話だ。 「俺なんて、尻まで青あざになったしねー」 皆人は思い出したように、尻をさすった。 ロシア出身の母親からスキーを教えられたお陰で、 このふたり、スキーの腕はプロ級だ。 しかし、スキーとスノーボードでは、何もかもがまったく違う。 皆人が初めてボードを履いた時は、 『これでもかっ!』 とばかりに、雪原を転げまくり、 滑っているというより、転げ落ちていると言った方が正解に近かった。 日頃のニコチンを言い訳にした運動不足がたたって、翌日は全身が筋肉痛になり、 かわいい奥さんの乃亜に、湿布を貼ってくれるよう頼んだ。 だがしかし、体には貼ってくれたが、青あざになった尻には、けして貼ってはくれなかった。
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