止まったままの夏

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小さな駅の待合室に入ると、そこには初めて見る少女がいた。 古く、動かす度に軋む扉の音で私に気づいたようで、読みかけの本を脇に置くと、私を見上げながら、不思議そうな顔をした。 「ねぇ、電車ってまだ来ないんですか?」 待合室に書かれた時刻表に掲示された時間はとうに過ぎているから、当然かもしれない。 それが、あの時までなら。 「あの日以降、汽車は来ないんだよ。代行バスなら、ここから少し行けばバス停あるから」 「そうなんですか。あれから大分経ったから、もう復旧してるかと思ってました。私、この夏からこちらに引っ越してきたんです。よろしくお願いしますね」 ペコリと頭を下げると、そそくさと荷物をまとめて駅を出ていく少女。 夏休みも終われば、あれくらいの子供達で賑わうこの駅も、今では誰も来ない。 廃駅のような寂しさだが、またいつの日か、子供達の笑顔に溢れる日が来ると私は信じている。
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