第1章

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 ある雨降る日。僕は暗闇にいた。携帯の電源を切り、外の喧騒から逃げ込むようにそこに座る。そして異次元への世界へと旅に出る。今日はどんな夢を見せてくれるのだろうか。期待しかない。無駄なものなんてない。どんなものでもなにかある。僕はこの空間が、この時間が好きだ。  映画館はやっぱりいいな。  親父が言ってたけど、昔は朝から夜までいても料金が一緒だったとか。二本立てとかも普通にあったとか。今はシネコンばかり。確かに快適なんだけど。デジタルフィルムが増えてしまった。ニューシネマパラダイスのようなのに憧れる。フィルムがかたかた言う音が聞こえるような映画館は風情があるよね。今はどこも差がない。これも時代なのか。  そして昔は非常灯とか案内灯も電気を消していたので本当に真っ暗だったそうだ。今はなんだかぼんやりと光があってちょっといまいちなんだよねあれが。もっと映画の世界に入り込みたいのに。 「なんで最後にアイツは裏切ったんだよー」キリコが憤っている。  ラスト前にはぐずぐず泣いていたのに。最後であの裏切りは観客をも裏切ったなぁ。意欲作だとは思うけど、賛否ははっきり分かれそう。まぁ僕は嫌いではないのだけど。 「ああいう男もいるってことだよ」 「女心を弄びやがって」泣いていたのが嘘のように吐き捨てる。  今日も今日とて寄り道したのだ。雨はさなんだか考えすぎてしまって気分が落ち込む。だから現実逃避したくなって映画の世界へ。一人で行こうと通学途中に思い立ち回れ右したらキリコに見つかった。  また怒られると思ったら、意外にも一緒にサボると言い出した。ちょっとくらいいいよねと舌を出すしぐさが頭から離れない。
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