第1章

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◇     ◇     ◇     ◇     ◇  あの夏の日。厚い雲が空を覆っていた。  一機の爆撃機が新型爆弾を抱えて九州上空を飛行中。第一目標の小倉は靄がかかっている。煙のようなものも邪魔をして目視での目標確認は困難なため三度爆撃航程に失敗。高射砲からの攻撃が激しくなる。また日本軍航空部隊の発進を確認したため小倉離脱。第二目標へと進路をとっていた。 「もうすぐ長崎です」中尉が報告する。 「雲が厚い。くそこれでは爆弾投下できない」少佐は舌打ちをする。 「レーダーを使うぞ」中佐が言う。  命令違反だ。目視爆撃ができない場合は海に捨てる予定だ。だが。 「了解。レーダーによる爆撃敢行します」少佐は準備を始める。 「街だ!」大尉が叫ぶ。「雲がわずかに切れた。第二目標発見」  少佐は素早く自動操縦に切り替える。「大尉変われ」 「小倉での失敗により燃料に余裕がありません。一度だけしか爆撃航程できません」 「一度で十分だ。このチャンスは逃さない。神の采配だ。手動で投下するぞ。準備はいいか」少佐は慌ただしく操縦席から爆弾のもとへとやってきた。 「準備できています!」爆撃機の空を切り裂く音に負けじと大声が飛びかう。 「高度9000。ファットマン投下」少佐が地獄切符を送りつける。  1分後。爆弾炸裂。成功。一瞬の閃光ののち爆風と衝撃派で建造物は無残に倒壊。灼熱が人を街を焼く。大きなきのこ雲が発生。山が多い地形のため予想より被害は軽減。それでも地獄へと変えるのに十分な威力であった。 ◇     ◇     ◇     ◇     ◇  悲劇を繰り返すことはもうしてはいけない。生きたまま焼かれるのはもういらない。どうかこの世から爆弾なんてものがなくなりますように。  僕は目から熱い水が流れていた。  キリコが黙ってハンカチで拭いてくれる。  キリコのためなら僕は命を投げ出せる。でも。  でもそのために人を無作為に殺すことはできない。してはいけない。 「戦争のない国に生まれてよかった」僕は呟く。 「これからも戦争のない国でありたいよね」キリコが言う。 「うん」  そして。 「そしてそれを世界中に広げたい」
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