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視線。
メガネ越しにこちらを見つめてくる視線。
出勤時間を変えたのが三日前だった。
朝六時半。片田舎のバス停だからか、この三日間、バスを待つのは僕と彼女の二人だけ。
色白で華奢。折れそうな身体を制服に包み、僕を見つめている。
仕事でズタボロになった精神が、つかの間の癒しとそれを感じ取っても致し方あるまい。
未成年との恋愛。相思相愛なら大丈夫だよな。そんな事を考えてしまうのも致し方あるまい。
朝の出勤時間に出来たささやかな楽しみ。
彼女の視線は僕にとって、そんな意味を持っていた。
そして今日。
彼女が小さく声をかけてきた。一言目は、あの、というなんとも可愛らしく、だが少しばかり怯えた。
少女の精一杯の勇気。
微笑ましい思いに包まれながら、何ですかと聞き返した僕に、彼女は一言、こう言ったんだ。
「ここ、禁煙です」
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