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ここは…どこだろう。
夜の帳のような黒いベッドの上に、白いワンピースに身を包んだ一人の少女が、体を丸めて横たわっていた。腰まであるだろうミルクティーブラウンの長い艶やかな髪は無造作に散らばり、少女の白く細い腕にも束を作りシーツへと伸びている。
まだ少し幼いあどけなさの残る寝顔。
少女の瞼がピクッと動くと同時に、長い睫毛からアメジスト色の澄んだ瞳が覗く。ゆっくり開けた瞳の先には、モノクロの世界が広がっていた。
ぼんやりする頭で横たわったまま、鈍い思考を巡らせる。
ー確か…、
蘇る記憶。
深い、暗闇の中で血を吸ったように輝く紅い満月の月。月を見た瞬間に走った憎悪と頬を撫でる冷たい風。
耳元で聞こえた、テノール…。
ーここは、どこっ!!
見知らぬ室内に視線を惑わせる。
『っ!!……』
ハッとしたように、完全に少女の瞳が開かれる。胸の中に不安と焦燥感が混じり合い、バッと体を起こした。
『ぅっ……!?』
グニャリと視界が混ざり会うように歪んだ。
起きてから直ぐに体を起こしたからだろうか、少女は気持ち悪さから口元を手で覆う。
ー気持ち悪い…吐きそう…。
「ほぅ、…俺の催眠術からもう目を覚ますとは」
ー誰!?…
気がつかなった。
三日月のように笑う唇。
切れ長の、アクアマリンのようなアイスブルーの瞳、スッと筋の通った鼻筋。そして、黒い髪とその顔立ちは、少女が気を失う前に見た人物にそっくりだった。
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