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第5話 蝉時雨
(A)
夏の終わり
私は学校を終え
蝉の鳴き声の中
本を読み
帰りの電車を
待っていた…
外には蝉の鳴き声が響きわたっている…
力の限りに鳴く
蝉の鳴き声を聞きながら…
私は想う…
この蝉達の青春も
もうすぐ終わるのだろうか…
私の青春も…
ふと我にかえり
そしてまた
手元の本を読みはじめた…
気がつくと
本から一枚の写真が床に落ちていた…
いつの間に…
本に挟まっていたのかな…
私は
床に落ちた写真を手にして
おもむろに見つめる…
写真には
私が好きだった
男の子が写っていた…
けど
その男の子はもう
いない…
○○くん…
ふと彼の名前が
口からこぼれた
私は彼に
まだ自分の気持ちを伝えていない…
伝える前に
彼は不慮の事故で…
自分の気持ちを彼に伝えられなかった事を私は
今も後悔している…
今
思えばあの時が
私の青春だったのかも知れない…
景色が滲み
メガネに水滴がこぼれた…
汗?…かな…
そしてまた
響きわたる
蝉の鳴き声で
私は現実に引き戻された…
あの時の悲しい事故も
全て無かったかの
ように
毎年…そして今年も蝉は鳴いている…
もうお盆だね…
私は誰に言うでもなく
独り言のように
呟いた…
プルルル…
電車が来たようだ…
私は写真を本に挟み電車に向かう…
ふと私は
誰かに話しかけられたような気がして
振り返った…
気のせいかな…
クスッ
○○くんの声だった…
今度
○○くんのお墓参りに行かなくちゃ
ありがとう…と
また
聞こえたような気がした
私は
走り出す電車の窓から
ひたすら広がる
綺麗な夕焼けを眺めていた…
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