第1章

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以前のバディ 濡棲 宝大(ヌスミ ホウダイ)は、仕事中に盗みを働き、クビになった。この仕事は信用第一。手癖の悪い奴には勤められない。 それが、例えソーセージ1本でも、だ。 ―――――――――――――― 掃除の範囲は店舗全体。 先ずはアラウンと俺で客席の机と椅子、それとガラス窓を丁寧に拭き上げる。 次に俺が客席の椅子を机に上げ、床を掃く。 その間にアラウンがバケツに薬剤入りの水を貯め、それで掃き終わった所にモップ掛けを行う。 床を掃き終わった俺はポリッシャーを巧みに操り、床を磨き上げる。 この、流れる阿吽の呼吸が大事なんだ。 淀み無く進む仕事が、気持ち良いんだ。 ……客席は。 ―――問題は厨房にある。 いつだってそうさ。 これだから嫌なんだ。 俺とアラウンが厨房に入る。 店舗に入った時に、全ての電気を点灯させている。つまり、厨房も暗闇から解放されてから既に3時間は経過しているのだ。 アラウンは頻繁に厨房からバックヤードを出入りしている。水を汲むためだ。 厨房の調理台は綺麗に拭かれている。 その上には、綺麗に洗われた食器類。 そして、その食器の上には。 カサカサ……       カサカサ…… 奴らが居る。       カサカサ…… カサカサ…… 綺麗に洗われた筈の食器の上を這いずり回る ゴキブリ。 カサカサ       カサカサ ゴキブリ ゴキブリ! ゴキブリ!!! これだから嫌なんだ! 奴らは『今は俺達の時間だ。人間風情が邪魔するな!』と言わんばかりに厨房を這いずり回る! ゴキブリだけじゃ無いんだよ! 世界的に有名で人気者になったのも数匹いるが、大概は嫌われているネズミも時折顔を出す! 食器の上は奴らのアトラクション! 登って降りて、 飛んで跳ねての大運動会! 俺らが居てもこの有り様であるのだから、俺らが居ない時の厨房は、それはそれは我が物顔なのだろう。奴ら。 そして、この運動会後の食器類は、 洗われる事無く料理が盛られ それを美味しそうに食べるお客さん。 古いビルに入っている飲食店で有れば有る程。 その水回り、厨房スペースで行われる大運動会の参加人数……いや、参加匹数は多い様だ。 …… 俺は、外食をしなくなった。
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