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ロシアの冬は寒い。
マイナス数十度の気温に、当たり前に下がる。
川が凍り、ダイヤモンドダストが降る街だ。
だがキリリと冷えた晴れた朝には、清涼な空気を求めて、人々は散歩に出かける。
母親が生まれた国だということもあるが、龍一はその国にとても親しみを抱いていた。
龍一の一見してハーフだと分かる外見も、日本にいるより、きっと風景に馴染むだろう。
今よりも、自由に生きられるのではないか。
寂寞にも似た想いを抱いて、タルコフスキーの世界を読みあげていれば、ふと、肩にトンと重みを感じた。
美百合が、龍一に寄りかかって、うとうとと舟を漕いでいる。
美百合と出会っていなければ、龍一は、今ごろはきっと――。
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