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「龍一、苦しいよ」
龍一の過剰な反応に、美百合は服の中からくぐもった声で苦情を言う。
「何すんのよ」
龍一は、
「今すぐ着替えるんだ」
理由も言わず、命令した。
龍一のかつての部下なら、龍一の命令は絶対だ。
龍一の冷酷な眼差しは、銃口をこめかみに突きつけるのと同じ役割を果たす。
相手の返答次第では、次の瞬間に容赦なく引き金を引く。
「Boooooo!」
しかし美百合の口からあがったのは、漫画のようなブーイング。
同時に頬が、エサを詰め込んだネズミのように膨れて、
半緑の着ぐるみの中で、ハムスターが一匹、龍一を見上げているようだ。
『お前は一体なんの生物だよ』
龍一は、思わず突っ込みかけたが、
「いいから、今すぐに着替えろ。昼間っからそんな淫らな格好をして、誰かに覗かれたらどうする!」
とにかく怒鳴りながら、開け放たれている窓を指差した。
しかし、寝室がある二階から見える風景は、自分の家のイチゴハウスの天井と、電線にとまる数羽のスズメだけ。
しかし、龍一は言うのだ。
「あれにカメラが仕込まれていたら、お前、丸見えだぞ!」
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