第1章

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一陣の薫風が新緑を大きく揺さぶっていった。ほのかにつんとした柚子の香りが鼻先を掠めていく。 僕はひたすら割れたアスファルトの上を駆けた。君に、たった一言を告げるために。 視界にその姿を捉えた瞬間、もう足に力が入らなくなって、よたよたと一歩を進めることしかできなかった。君には僕がどんなふうに映っているのだろうか。 僕の前から去ってしまう君に――もう二度と会えないかもしれない――ベンチにそっと腰掛ける淑やかな君の、その上目で静かに見つめる瞳を――その柔らかな唇を――ああ、―― 薄ピンクの唇が微かに動いた。なんて言ったのか、僕には聞こえなかった。背後に迫り来るバスのエンジン音が僕らを飲み込んでいく。 大きく、この胸が張り裂けんばかりに空気を吸い込んだ。 B「ずっと、ずっと――君のことが好きでした!」
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