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A「ここ、禁煙。あと、歩き煙草は危険だよ。」
B「あ―……悪い。今消すわ。」
妹が指差す先に『禁煙』の文字がある。
ここは田舎町で、歩き煙草を問題視する要因は一切ないのだが、妹は真面目な性格なのだ。
靴裏で煙草の火を消す兄に眉を顰めるが、妹は黙る。
B「よし、帰るか。」
A「うん。車?」
B「あぁ。で?どうだった?」
A「う―ん……微妙。あの人が母親だっていう実感がない。お兄ちゃんは?」
今日、妹は市内に住む母親に会いに行っていたのだ。
B「 俺もないな。正直、覚えてないしな。」
A「そうだよね。私も覚えてない。」
ベンチに座り、遠くを見つめる妹を見て、兄も物憂いに溺れる。
そんな二人を他所に、辺りは喧しい程に蝉の鳴き声が響き、微かに遠くから電車の走行音が聞こえてきた。
これは、夏休みが終わる一週間前の出来事だった。
End.
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