#04 * 歌子

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同じ幼稚園……? 私と雪将くんが……? 「ほら、うたちゃんが年少さんの時、  年長さんのお兄ちゃんと、手つなぎ遠足に行ったでしょ?」 うなずき 「その時に貴方の手を繋いだのは、古谷さんちの長男坊。  覚えてない? 春雪くん。」 <はるゆきくん……> 思い出した。 春雪くん。 聴覚過敏の症状が出始めるよりもっと昔、 まだ私が、みんなと普通に話せていた頃に会った、 優しいお兄ちゃん。 手つなぎ遠足で私の手を取って歩き、色んなことを教えてくれた、 物知りなお兄ちゃん。 花の名前、草木の名前、季節の虫や、星の名前に詳しかった。 そういえば…… 「春雪くんと遊ぶ時、よく連れてきてなかったかしら。次男坊くん。」 そう、いつも春雪くんともう一人。 小さくて、細くて、無口で、気弱な男の子が一緒だった。 いつも会話には入らず、「うん。」とか「ううん。」しか言わなくて、 卒業までの3年間、ずっと同じクラスだったのに、 ほとんどしゃべらなかった、男の子。 でも一度だけ、その子に言われたことがある。 「きれいな声だね」と。
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