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「ね、傘忘れちゃったんだけど、入れてくれない?帰る道、どうせしばらく一緒でしょ?」
雨、おまけに嫌いな人物との遭遇。
気分が落ち込む自分をよそに、その人物は悠々と要求をぶつけてくる。
傘は、ある。
朝、眠たい目をこじ開けて見た天気予報が、曇りから雨のマークに変わっていたから。
持ってきている。
別に他人と帰るのにも問題ない。
同じ歩幅で帰ればいいだけ。
ひとつの傘を二人で共有することによって、肩が少し濡れるくらい。
けどそんな些細なことは自分にとってどうでもよかった。
昔から与えられた要求を与えられたぶんだけ返す、頼まれればするし、求められれば自分にできる範囲で返す。そうやって生きてきた。それが楽だったから。
けど、この人には違う。
求められたソレを、素直に返すことを拒む。
拒んでしまう。
嫌い、だから?
はっきりとした感情はわからなければ、この混ざりきらない感情に名前をつけるのも面倒くさい。
ただ、頭の中が否定する。
「一一いやだ」
だから、それに伴った言葉が口から放たれる。
別段大きな声でもなかったけれど、自分とその人物の空間にその言葉はよく響いた。
「一一っぷ」
すると、相手が含んだような笑い方をする。
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