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いつもと同じ見慣れた道を歩く。
車1台分がやっと通れるくらいの細い道。
いつもと少し違うのは、横に嫌いな人物がいること。
嫌いな人と歩幅を合わせて帰っていること。
一一早く、家に着け。
学校を出てからずっとそれだけ考えている。
いつも調子よく喋る横の人物も、特に口を開くこともなく。
「…………」
これは……少し気まずい。
別にそんなことを意識するほどの人じゃ無いのだけれど。
肩があたるほどの距離、その上傘という限られたスペースの中で帰路に着くということには、俺と相手、2人だけの確かな空間があった。
そんな中での沈黙。
妙に意識してしまう。
触れ合う肩から伝わってくる相手の温度、俺より少し高い身長だとか、袖から覗く白い腕……とか。
相手をちらりと見上げる。
嫌いだからよく顔を見たことはなかったけれど、近くで見れば整った顔をしているのだと認識する。
横顔……だけど。
「……なに?」
一一しまった、と思った。
気づいた時には相手も視線をこちらに向けており、目が合ってしまった。
どうやら見ていたことに気がついていたようだ。
慌てて視線を前に戻す。
「……べつに、なんでも」
動揺で声が揺れる。
「今、見てたでしょ、俺のこと」
「……」
バレている限り、嘘をつくのは無意味だ。
「見てないこともない、けど」
それでも見てた、とはっきり言えない。
「ふーん」
特に興味もないような、けれど俺の挙動をしっかりと見抜いたように呟く。
けれどそれ以上は何も言わないまま。
先程より気まずくなってしまった空気に俺は肩を落とす。この空気を気まずいと思っているのもおれだけなんだろう。
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