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そのとき、たまたま強い風が吹いたのか、トラックが通ったから風が吹いたのかわからない。
けれど、確かに目を瞑るような強風は起きた。
「っ!」
ゴォッという音とともにトラックは俺たちを追い抜かし、そのままのスピードで去っていく。
手を出せば届くほどのギリギリの距離を走っていった。
(一一危ないなぁ)
顔も知らないトラックの運転手に小さく毒づきながら再び歩こうとしたとき、隣から発せられた声。
「うわ」
ついでに覚える不快感。
「傘壊れちゃった、魚屋さん」
相手の手には、本来ならアーチ状の傘が握られている筈なのに、先程の強風によって傘とは呼べない全くちがうものへ変形していた。
おまけに膝から下もびしょびしょだった。
さっきのトラックが水溜まりを跳ねて行ったのだろうか。靴の中までぐっしょりな不快感に顔をしかめる。
それから次の行動に出るまで、ほんの1、2秒の間だったと思う。けれど、空から降る雨粒はみるみるうちに俺と彼を濡らしていく。
「走って」
ぐっ、と腕を掴まれたと思いきや、彼は走り出した。呆然としていた俺はその行動に逆らうこともなく腕を引かれながら走り出す。
バシャバシャと音を立てながら、本来ならよけて歩く水溜まりにもお構いなく走り続けた。
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