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朝蝉の声が爽やかな陽の注ぐアスファルトに降る、そんな日のバス停で彼女を見た。制服姿の彼女はいつも愛用している眼鏡に、少しくたびれたカバーの本を片手に待っていた。
しかし、今日は本を読んでいない。
B「ーーおい。なんでいるんだよ」
声に気づいた彼女は眼鏡を少し上にずらすと、その顔に花のような笑顔を浮かべた。
A「待ってたの」
そう言い立ち上がると、髪をかきあげ手に持つ本を渡した。何の小説か分からないが、彼女が常に手放さなかった本。
B「なんでーー」
私は彼女の本を開いた。活字の上に別の文字が殴り書きしてある。それを読みもう還暦を迎える自分は頬に涙を滑らせていた。
B「ごめんな」
再び、顔を上げると彼女はいなくなっていた。彼女の遺書を胸に家に帰ると、無造作に突っ込んであった新聞を広げた。そこには一面にちょうど42年前、海へ墜落した飛行機の残骸が見つかったという。
私は彼女が消えた空を見上げた。
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