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「あ。うちのバス来た。じゃ、またね」
本から目を上げると、友達が手を振っていた。
「うん。またね」
友達を見送り、再び本に目を落とす。
わたしはいつも一人でバスを待った。
背中側から陽光が柔らかく降り注ぐ。
故郷のバス停は、十年が過ぎた今も変わらずあった。
あの頃、時折見かけた”友達”が誰だったのかをわたしは知らない。
彼女はいつも、わたしより早くバスに乗って去った。
あの日のわたしが、本を読みながらバスを待っている。
内気で友達が少なくて、気がつけばいつも一人だったわたし。
進学、就職、…結婚。
遠すぎて想像もできなかった未来。
今はもう、目の前にある未来。
つま先から続くみち。
「あ…。うちのバス来た。じゃ、またね」
彼女が顔を上げる。
「うん。またね」
はにかんで笑う彼女を置いてバスに乗る。
車窓からバス停を見る。
あの日のわたしが、木漏れ日を背負って座っていた。
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